数多くある定番コード進行の中でも「これを使えばどんな曲でもたちまちオシャレになる」といわれているのが”Just the Two of Us進行”といわれるコード進行です。
このコード進行は近年特によく使用されている印象ですが、今回はどの曲のどんな部分に使われているかを分析をしたいと思います。
覚えておくとセッションや作曲に活用できると思いますので、是非参考にしてみてください。
Just the Two of Usの基本事項
Just the Two of Usという楽曲について
「Just the Two of Us進行」とは”Just the Two of Us”という曲に使われたコード進行から命名されたものです。
その”Just the Two of Us”は、アメリカのサックスプレイヤー、グローヴァー・ワシントン・ジュニアが1980年に発表した『Winelight』というアルバムに収録されています。
歌っているのはビル・ウィザースというシンガーで、作曲者の一人でもあります。
今から40年前の曲というと古めかしい曲をイメージしますが、曲自体は全然古さを感じさせませんね。
こんなに古いのに、現在のヒット曲のフォーマットになっているのですから、この曲のもつポテンシャル(普遍性、構成力、アレンジ等)は計り知れません。
コード進行
それでは実際のコード進行をみていきましょう。
こちらが「Just the Two of Us」のオリジナルコード進行です。
そして分かりやすいようキーCに置き換えたものがこちらです。
この進行が印象深い理由を分析してみましょう。
まず出だしのF△7はキーCにおけるサブドミナントにあたるため、すこし不安定なうえにメジャーセブンスのオシャレ感もあいまって浮遊感漂う雰囲気となっています。
そして続くE7→Am7の進行ですが、ここはAm7を仮のトニックと見立てたセカンダリードミナントを形成しています。
セカンダリードミナントは、ダイアトニックコード外の音が登場するので、一時的な転調感を与えることができます。しかもAmはCメジャーの平行調にあたるため、メジャーとマイナーがまじりあった曖昧な雰囲気をかもしだしています。
そうしてもう一つ、コード進行の中でも終止感を感じられるツーファイブ進行も隠されています。
一小節目のF△7をトニックに見立てGm7→C7という流れがツーファイブ進行となっており、聴き手に解決感による気持ちよさを与えてくれます。
このように、ダイアトニック外の音をうまく取り入れ、かつメジャー感とマイナー感を混在させることで、不思議な浮遊感とオシャレな感じを出しているといえます。
本進行に対する音楽業界での捉えられ方
“Just the Two of Us”進行に関しては以前、テレビ朝日で放送されている「関ジャム」の椎名林檎特集において話題に上ったことがあります。
ゲストの岩崎太整氏(作曲家)はこの進行に「ジゴロ進行」という名前を付け、日々発見すると自発的に取り締まっているそうです。
というのも、この進行をループして使うとどんな曲でもイイ曲になってしまうため、安易に使うとどれも似た感じになってしまう。この進行を使うときはオリジナリティ…とくにメロディに確固たるものがないと単なる借り物になってしまう、という主張をしています。
そして、よく使うコード進行についてという設問に答えた椎名林檎さん自身も、この進行を使うことになんの抵抗もないかといえば、ある。ただし、一味違うエッセンス、スパイスを効かせて使う…という図らずも岩崎氏と同じような主張をされていました。
実際に、ソロでは「丸の内サディスティック」「長く短い祭り」「目抜き通り」といった曲でこの進行を使っていますが、どれも異なった雰囲気をまとった曲に仕上がっていますね。
さて、では具体的にどの曲のどの部分にこの進行が使われているのか、分析していきましょう。
Just the Two of Us進行 10選の分析
今回はJust the Two of Us進行が使われている楽曲の中から、10曲を選んで分析していきます。
宝島 (THE SQUARE)
アーティスト:THE SQUARE
発表年:1986年
キー:F
Aメロから”Just the Two of Us進行”が使われています。動画の0:20~です。
Ⅳ△9 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 I9 |
B♭△9 | A7 | Dm7 | Cm7 F9 |
フュージョン界からTHE SQUAREの名曲「宝島」!この曲ではAメロを中心に進行が使われていますが、オシャレには変わりないものの爽やかさが上回っている気がします。これは9thが使われていること、そしてギターのカッティングが軽快さを醸し出している効果があると考えます。
丸の内サディスティック (椎名林檎)
アーティスト:THE SQUARE
発表年:1999年
キー:E♭
イントロから全編に渡って”Just the Two of Us進行”が使われています。
Ⅳ△7 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | I7 |
A♭△7 | G7 | Cm7 | E♭7 |
“Just the Two of Us進行”を語るうえでこの曲は外せないでしょう。今や本家以上にこのコード進行の代名詞的存在になっており”丸サ進行”とも呼ばれます。
この曲以外にも「長く短い祭り」や、東京事変では「能動的三分間」「絶体絶命」といった曲でこの進行が使われていますが、メロディやアレンジの妙により違った魅力を出していますね。逆でそうでないと、このコード進行を連発して使うことはできないでしょう。
Plastic Love (竹内まりあ)
アーティスト:竹内まりあ
発表年:2001年
キー:Dm
”Just the Two of Us進行”の変形ですが、ほぼ全編に渡りループで使われています。
Ⅳm7 | Ⅲdim | Ⅵm7 | Ⅴm7 I |
Gm7 | B♭dim | Am7 | Dm7 |
ミディアムテンポのAORという感じで、割と王道的な使い方になっています。特に0:19~の流れは、変な小細工無しで”Just the Two of Us進行”のうまみを味わうことができます。
A Perfect Sky (BONNIE PINK)
アーティスト:BONNIE PINK
発表年:2006年
キー:E♭
イントロからほぼ全編に渡って”Just the Two of Us進行”がループで使われています。
Ⅳ△7 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm I |
A♭△7 | G | Cm7 | B♭m E♭7 |
”丸の内サディスティック”とまったく同じコード進行ですね。少なからず影響を受けているものと考えられますが、リズムを変えるだけでこうも曲の雰囲気が変わるかーという一つの事例としても分かりやすいですね。
PVの雰囲気とピッタリの夏らしい一曲です。
デザイナーズマンション (スキマスイッチ)
アーティスト:スキマスイッチ
発表年:2009年
キー:A
イントロからほぼ全編に渡って”Just the Two of Us進行”がループで使われています。
Ⅳ△9 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm I |
D△9 | C#7 | F#m7 | Em Em/A |
イントロのギターアルペジオがより一層オシャレさを増してますね。
ピアノによるコードバッキングが”丸の内サディスティック”を彷彿とさせますが、メロディラインや歌い方にオリジナリティがあるので、うまくこのコード進行を生かしているといえます。Bメロのコーラスワークも深みがあります。
キーラーボール (ゲスの極み乙女)
アーティスト:ゲスの極み乙女
発表年:2013年
キー:B
イントロから全編にかけて”Just the Two of Us進行”がループで使用されています。
Ⅳ△9 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | I |
E△7 | D#7 | G#m7 | B |
バッキングが白玉コードではなくピアノによる刻んだリフで、かつテンポが速い曲であるためか”Just the Two of Us進行”感は薄めですね。オシャレさよりもポップ感が増しているように感じます。
そういえば今日から化け物になった (クリープハイプ)
アーティスト:クリープハイプ
発表年:2014年
キー:D
イントロから全編にかけて”Just the Two of Us進行”がループで使用されています。
Ⅳ | Ⅲ | Ⅵm | Ⅴm I |
G | F# | Bm | Am D |
ギターのリードプレイによるイントロは、今回紹介した曲の中では異色ですね。歪んだギターのバッキングは鍵盤よりもコード感は薄まるので、”Just the Two of Us進行”特有のオシャレ感は控えめです。
加えて、7thを使わずほぼ3和音に終止していることで、よりストレートで勢いのある楽曲になっています。
もしかしたら、オシャレ方面のアレンジでこの進行を使って「ありがちだな~」と思われるより、シンプルなロックでさり気なく生かすのもいいかもしれません。
今夜もHi-Fi (松室政哉)
アーティスト:松室 政哉
発表年:2018年
キー:C
イントロを中心に”Just the Two of Us進行”が使用されています。
Ⅳ△7 | Ⅲ7 | Ⅵm7 | Ⅴm7 I1 |
F△7 | E7 | Am7 | Gm7 C7 |
この曲ではイントロのピアノで使われていますね。やっぱり歌で聴かせるタイプの楽曲ですので、この進行はとっても合いますね。
動画はコロナの影響でライブを開催できない中でのホームセッション!離れた中でのアンサンブルでもこんな素晴らしい演奏ができるんですね!
脳裏上のクラッカー (ずっと真夜中でいいのに。)
アーティスト:ずっと真夜中でいいのに。
発表年:2018年
キー:B
”Just the Two of Us進行”の変形タイプです。イントロ中心にループで使用されています。
Ⅳ | Ⅳ7 | Ⅶm7 | Ⅴm7 I |
G# | G7 | Cm7 | A#m7 D# |
Just the Two of Us進行をベースにした変形タイプといえますね。最近はまんま進行を取り入れるより、多少崩して使うのもよく見られます。
そう考えると、エッセンスを取り入れながらも、オリジナリティも発揮できるので、このあたりは今後も増えそうですね。
夜に駆ける (YOASOBI)
アーティスト:YOASOBI
発表年:2019年
キー:E♭
イントロでも一部変形が使われているが、ちゃんと使われているのはAメロ。
Ⅳ | Ⅲ7 | Ⅵm7 | I |
A♭ | G7 | Cm7 | E♭ |
この曲は「丸の内サディスティック」とキーが同じなのでコード進行がまったく同じです。なのに雰囲気は随分違いますね。コード感は主に歪んだギターなのでコード感は薄目ですね。
この楽曲のようにコード感をあまり出さずにメロディで聴かせていくのは、”Just the Two of Us進行”をうまく生かしていく一つの方法論でしょう。
まとめ
「この進行を使えばどんな曲もイイ曲に聴こえる」と評判のJust the Two of Us進行を使った10曲について分析してみました。
やはりどの曲も、曲自体がイイ!というのは、率直な感想です。
コード進行自体には著作権がないため、いくらでも使うことができます。しかしただコードをなぞっただけではどれも同じ曲に聴こえてしまう。それは岩崎太整氏、椎名林檎さんが言っているとおりでしょう。
それでいうと、今回ご紹介した曲はどれもオリジナリティが感じられるのはさすがといったところです。
メロディ、アレンジ、リズム、音色、歌…音楽を構成する要素はたくさんあるので、おいしいコード進行を使いながらも、どこに工夫を入れるか、そこが腕の見せどころですね!
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