当たり前の話ですが、私たちが一般的に耳にする音楽は基本的には”曲(メロディ)”と”歌詞”で成り立っているものが多いですよね。(僕の好きなインスト曲には歌詞ありませんけど)
ただし、それだけの状態ではまだ不十分です。
曲という骨格に対して、肉付けしていく作業「編曲(アレンジ)」を行い、演奏(またはプログラミング)して初めて音楽が形になります。
このアレンジ…作曲に比べると,イマイチ「どういう作業なのか」という部分の一般的認知が低いように思うのです。
今回は、編曲を行う人「編曲家(アレンジャー)」の様々な活動パターンを通して、編曲というものの理解を深めてきましょう。
編曲(アレンジ)とは
編曲(アレンジ)とは、作曲者が作ったメロディに対して、
- コード進行
- リズム
- 使用する楽器
- コーラスワーク
- イントロ
- 間奏
- アウトロ
などの音楽的要素を全て担当する人をいいます。
作業範囲もさることながら、コード進行やリズムなどは高度な音楽知識を有していないと対応できませんし、どの楽器を使用するかについても、主だった楽器の特性(音色や音域、奏法など)を理解している必要があります。
一般的には、1つの楽器は専門的に演奏できるうえで、複数の楽器を扱えることが必要といわれています。
それらに加えて、ポピュラー音楽の編曲は、リスナーを飽きさせない工夫が必要となります。キャッチーだったり、哀愁を醸し出したり、1曲の中でメリハリをつけて盛り上がりの流れを作ったりします。
つまり、技術的に音楽を形にするだけでなく、センスも問われるということです。
それだけ、曲に対して”編曲”は重要で、楽曲のイメージを決定づける工程なのです。
ここで、編曲によってどのくらい曲の雰囲気が変わるのか、誰もが知る童謡を例に曲を聴いてみましょう。
youtube:yochinoteチャンネル
そして、編曲は一般的な(ギター、ベース、ドラムが揃っている)バンド編成の曲だけでなく、オーケストラとか、吹奏楽とか形態を問わず音楽を形にすること全般を指します。
例えば、ソロピアノの演奏でも、アレンジ次第で曲がガラッと変わります。
例としてyoutubeですごい演奏を披露しているござさんの「天国と地獄」です。
以前の「音楽関係の仕事」の記事の中で、編曲家の仕事を簡単に紹介しています。
著作権上の扱いと報酬
楽曲にとってこれほど重要な編曲ですが、著作権的にはどう扱われるのでしょうか。
編曲家に対しては「二次的著作物の利用に関する権利」というものが付与されます。
ただしこれらは、楽曲の著作者である作詞家・作曲家にも同等に発生するものです。
よって、CDが売れたり、カラオケが歌われた際に支払われる”印税”は、編曲家には入ってきません。
編曲に対する報酬は、1曲〇〇円のような買い切り型がほとんどです。
編曲家(アレンジャー)の活動形態
編曲を仕事として行う立場(肩書)には次のケースが考えられます。
- 専業のアレンジャー
- プロデューサーが行う
- バンドメンバー全員で行う
- 特定のバンドメンバーが行う
- 作曲者自らが行う
では、一つずつみていきましょう。
①専業アレンジャー
音楽の編曲を専門に行う人、つまり編曲家が編曲を行うパターンです。
確かに、70~80年代頃のアイドル歌手全盛時は、編曲といえば編曲家に依頼するという流れが一般的でした。
現在のように自ら曲を書く”シンガーソングライター”は少ない時代でしたから、当然外部の作曲家や作詞家が曲を書き、その曲の編曲を行うのが編曲家という訳です。
そしてその当時の編曲家は、ほとんどがレコード会社の社員として、組織に所属して仕事をしていたようです。
時は流れ現在では、「編曲一本で生計を立ててます!」という人は決して多数派ではなく、多くは作曲家と兼ねていたり、アーティスト自身が行っているケースが多くなっています。
理由は色々あると思いますが、元々アーティスト自らが曲も書く”というスタイルが一般化してきたことに加え、機材やソフトウェア(DAW)の発展によりアレンジ作業のハードルが下がってきたことも一因でしょう。
②プロデューサーが行う
あるアーティストが音源を発表するにあたり、全体の方向性を決めたり、必要な人材や予算を手配したりと、そのプロジェクト全体に責任をもつ立場がプロデューサーです。
近年の日本では、編曲を含めた個々の楽曲制作にも深く関与するプロデューサーが台頭してきたことから、プロデューサーの定義も変化しているのが実態です。
例えば音楽プロデューサーでいえば以下のように細分化することが出来ます。
- エグゼクティブ・プロデューサー
プロジェクトの全体統括としての責任者 - トータル・プロデューサー
音楽制作の進行管理に関する責任者 - サウンド・プロデューサー
編曲を含めた個々の楽曲制作を具体的に進めていく責任者
実際は各プロデューサーによって、①②を兼ねたり、②③を兼ねたりと、様々なケースがあります。③の場合は作曲や編曲を自ら行い、場合によっては演奏まで行うという、ほぼミュージシャンでは?という人までいて幅が広いです。
イメージとしては、②の人が各ミュージシャンやアレンジャーを雇い音源化することに対して、③はそれを自ら行うといったところですね。
それでは、編曲を行うプロデューサーの具体例を見ていきましょう。
小室哲哉
おそらく日本で一番有名な音楽プロデューサーといえるかもしれません。
小室氏の全盛期について、CDセールスという観点からいえば90年代がそれにあたると思います。ただし、今でも街角に出て「音楽プロデューサーといえば」的なアンケートをとればもっとも票を集める存在であると予想します。
それだけのインパクトを音楽業界に残したといえます。
小室氏のプロデュースは、作詞、作曲、編曲を自ら行い、そのまま音源トラックまで作り上げたものを、対象のアーティストに提供するという形式が多く、音源制作に関して完璧にイニシアチブをとっていくスタイルといえます。
元々自身がTMネットワークやglobeをはじめとしたアーティスト活動を中心に行っていたため、音楽制作の延長にプロデュース業があるというのが、分かりやすい理解だと思います。(人材の発掘にも目を見張るものがありました。)
そしてなんといっても小室氏が好んで使用するコード進行は「小室進行」という名前までついているくらい、個性のある作曲家であり、編曲家であったと思います。
小林武史
Mr.Chirdren(ミスチル)やMy Little Lover(マイラバ)など、数多くのバンド、アーティストをプロデュースし一時代を築いた存在です。
小室哲也氏と同時代に活躍し、イニシャルも同じ”TK”であったことから、この二人の活躍はTK時代ともいわれました。
小林氏の場合は、プロデュースする対象によって役割がだいぶ変化する傾向にあります。
例えば、自らもメンバーとして所属したマイラバの場合は作詞、作曲、編曲を全て行いましたが、ミスチルの場合は桜井さん作詞、作曲を行うため、主に編曲を中心としてプロデュースに関わっていました。
ただし、本職がキーボーディストである小林氏の編曲は、ピアノを中心とした鍵盤系に寄ったアレンジになる傾向が強く、ミスチルのコアな一部ファンからは不評を買っていたようです。(田原さんのギターが全然目立たないなど)
また世に出る大きなきっかけとして、サザンオールスターズにアレンジャーとして参加していたことも大きかったと思います。
名曲「希望の轍」や「真夏の果実」は、あの印象深いイントロを含め、小林氏の仕事ですが、あまりにも腕がいいため、桑田さんが「このまま小林君に頼っていたらサザンがダメになる」と危機感を覚えたのは有名な話です。
富田恵一(富田ラボ)
富田恵一氏は、プロデューサーとして編曲をこなすだけでなく、マルチプレイヤーとして演奏も積極的にこなします。
やはり実際の楽器を演奏できるということは、編曲を行ううえで多いな武器です。
こちらの動画で富田氏の編曲風景をみることができます。コード使い方など、オシャレ感が満載です。
③バンドメンバー全員で行う
バンドには各パートのメンバーがいますので、それぞれの楽器パートはそのメンバーがそれぞれ考える、というケースです。
作曲者は自分のイメージを伝えるためデモテープを作成することが多く、よくあるケースは、そのデモテープに基づきセッションなどを通じてアレンジを煮詰めていく流れです。
ただ、デモテープと一口にいってもその内容は千差万別で、ギターを弾き語りしただけの簡素なものから、しっかりと細部まで打ち込んだほぼ「出来てるんじゃね?」といえるレベルのものまで、作曲者によってまちまちのようです。
よって、各メンバーがどの程度各パートのアイデアを出すかは、元となるデモテープによる、といえるかもしれません。
UNICORN(ユニコーン)
ユニコーンの場合は、各自のデモテープを持ち寄り、誰が作ったか知らない状態で曲を聴く会(という名の飲み会)を開きます。
その場では各曲への反応は特に示さず、実際のレコーディング現場で、「そういえば、あの時こんな曲あったよね?」と誰かが言い出し、演奏をそれとなく始める…といった感じですい。
それがそのまま音源としてCDになりますからね。
このやり方、特殊なのかどうなのか…ユニコーンらしいといえます。
とはいえ、各メンバーの豊富な経験と高い演奏技術があってこそ可能なスタイルだと思います。
④特定のバンドメンバーが行う
バンドのリーダー、もしくは、バンドの核となる人は中心となってアレンジを詰めていくケースです。
本来バンドは音楽的に各メンバーが対等であるべきとも思いますが、実際にはバンドのイニシアティブをとるリーダーっぽい人がいるものです。”バンマス(バンドマスター)”ってやつですね。
”対等”はお互い高め合う良い方向に向いてくれればいいですが、方向性が違うと衝突→解散という流れになることもあり、実際に有名バンドの解散理由もこういったもめ事であることが少なくなりません。
ゲスの極み乙女
ゲスの極み乙女はご存知、川谷絵音率いる…という枕詞がしっくりくるくらい、Vo/Gの川谷絵音氏が主導しているバンドです。
それは全曲の作詞、作曲だけにとどまらず編曲にも及んでいます。
その様子がよく分かるのが、以前放送された「関ジャム」で見せたメンバー間のやり取りです。
この回は即興作曲に挑戦するというコンセプトで、実際番組の進行中に曲を作ろうというもので、実際にすごいスピードで詩を完成させます。そして曲(メロディ)の前にコード進行を決め、次に各パートに指示を出します。その指示の的確さ、そしてスピードがすごかった。
ドラムやベースに対しては、身振りや擬音を使ってリズムパターンを示し、キーボードについては音色の種類や弾き方まで指示する。各メンバーも緊張感はありながらも、戸惑い感はない(いつものパターンね…という感じ)
昨夜の関ジャム「ゲスの極み乙女」登場。衝撃的なドキュメント。無茶振りテーマ「渋谷センター街、夜に牛丼屋ひとりでいる女」即興で作詞作曲した👏 「透明にならなくちゃ」川谷絵音さん素晴らしい才能と楽器プロメンバー3人。新曲もいい😀 #番組 pic.twitter.com/lp0uml7yDj
— 京のおっちゃん (@toshikyto) January 11, 2016
このように、バンドの中心メンバーが圧倒的なイニシアティブを握って、編曲を含めた音楽制作を進めるというケースがあります。
詳しくはこちらの記事でも解説しています。
⑤作曲者自らが行う
ソロアーティストが全部自分でやってしまうケースですね。ある意味、究極の”セルフプロデュース”といえます。
全部というのは、作詞、作曲、編曲、演奏、歌、コーラスなどです。更にはレコーディングやミックス、マスタリングといった作業まで行う人もいます。
これをやるには前提として、”マルチプレイヤー”でないといけないですね。
逆に言うとマルチプレイヤーだからこそ、編曲を自分で行うことができる、ともいえます。
奥田民生
マルチプレイヤーの話題はいつも奥田民生さんの例を持ち出してしまいます。
が、一番分かりやすい活動してくれますからね。
奥田さんは、かつて、ひとり多重録音ライブツアー「ひとりカンタビレ」を開催しました。このツアーはステージ上に機材を並べ自分で全楽器を演奏し、レコーディング工程を丸ごとライブで見せ簡単なミックスまでするという試みで、録音した音源はその日中に即配信するというもの。
あと、youtubeで「超カンタンカンタビレ」と称して、自身の楽曲を全て演奏しレコーディングするという動画を公開しています。
これがまた最高に面白いので、楽器好きの方は是非みましょう!
まとめ
様々な活動形態を通じて、編曲(アレンジ)という作業、そして編曲家(アレンジャー)の役割をお話ししました。
”作曲”がどちらかというとイマジネーションや創作の世界だとすれば、編曲は職人肌、技術系の仕事であることがお分かりいただけたと思います。
また、作曲と編曲、編曲とマルチプレイ(複数楽器の演奏)の境界線が曖昧という実態もお分かりいただけたと思います。
いずれにしても、求められるスキルは高くなりますが、自分の腕一つで曲の雰囲気をガラッと変えられる、そんな面白さが詰まった仕事だと思います。
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