今回はTVアニメ「鬼滅の刃」の挿入歌として使用された「竈門丹治郎のうた」について、コード進行を中心とした楽曲分析を行います。
この曲は全26話で構成された第1期アニメの第19話「ヒノカミ」、及び劇場版(こちらは歌詞のない別アレンジ)でのみ使用された、特別な曲でファンの人気も高いです。
主人公、丹治郎の心情がこれでもかと映し出された、切なくも前に向かう力強さがある、そんな名曲を紐解いていきましょう。
竈門丹治郎のうたの基本事項
- 作詞:ufotable
- 作曲・編曲:椎名豪
鬼滅の映画やアニメで劇伴も担当 - 歌:中川奈美
同じくアニメ等にコーラス等で参加
最初は挿入歌の1つでしたが、第19話での衝撃が強すぎて音源化を望む声が多く届いたことから、急遽配信限定でリリースされ、オリコンの「週間デジタルシングルランキング」で最高位3位を獲得しています。
作詞はアニメ制作会社であるufotableが担当しているのがポイントですね。物語と曲のリンク具合が半端ありません。その辺りは後程解説します。
《参考》カバー曲・ピアノアレンジ
Youtube上には「竈門丹治朗のうた」をカバーしている動画が多くあり、すばらしいものが多いのですが、特にこれは聴いてほしい!という動画を2つご紹介します。
一つ目は、原曲とまったく異なるアレンジでカバーしているこちらの動画。
まさかのメタルバージョンを歌うのは、ノルウェー出身のシンガーソングライターPellek。アニメのカバーなどを様々な言語でカバーしています。
この曲もめちゃめちゃ流暢な日本語でカバーしていますが、注目すべきはそのアレンジと歌唱力。エレキギターとハイトーンヴォイスにより、原曲とはまた違った切なさを湛えつつ力強さが加わっています。
特に”失っても 失っても 生きていくしかない”などの部分は、そのハーモニーと相まって胸に突き刺さります。是非聴いてほしいですね。
2つ目はソロピアノで再現したこちらの動画。
アニメ主題歌等をピアノでカバーしている「AnimenzPianosheets」さんです。
こちらの動画も、原曲に対して独自のアレンジを加えることで、唯一無二の仕上がりになっています。クラシック仕込みの高速パッセージや、感情たっぷりに奏でるパートなどメリハリが効いて、聴いていて気持ちいいです。
コード進行分析
それでは、さっそく「竈門丹治郎のうた」の分析をしてみたいと思います。フルのコード進行はこちらのサイトをご覧ください。
キー
この曲のオリジナルキーはDマイナーですので、Dナチュラル・マイナーダイアトニックコードを中心に構成されています。

主に使用する音を鍵盤で示すと以下のとおりです。

イントロ
まずはイントロをみていきましょう。

ピアノと篠笛によるシンプルなイントロです。
コード進行的には1(トニック)からⅦ→Ⅵと流れる進行であり、実際のピアノ演奏もその通りですが、一方でベース音的にはDm→C→B♭と下降することになります。
つまりマイナーキーによる”順次下降”のコード進行と捉えることもできます。
”順次下降”はバラードやメロディアスな楽曲に用いられることが多く、心に染みわたるメロディを乗せやすい進行です。ただ、このイントロのようにメロディラインがなくとも十分雰囲気を出せる進行だと思います。
Aメロ
続いてAメロです。(歌い出し:戻れない 帰れない……)

Aメロの前半(1小節から4小節まで)は、D→C→B♭→A→G→F→Eというように、ベース音がきれいにに下降しています。
ここではイントロと同じようにマイナーキーによる”順次下降”が用いられています。シンプルなピアノのコードに、譜割りの少ないゆったりとしたメロディがハマるコード進行ですね。
一方、後半(5小節から8小節目)は、ほぼ同じメロディがのっていますが”カノン進行”が用いられています。実際に冒頭の動画を聴いていただくと違いが分かりますが、前半はピアノの伴奏が下降していき、後半はチェロの音色も加わり、より上下の動きが出てきました。
同じメロディですが、コード進行を変えることで、盛り上がり感を演出し、次のパートに繋げる役目を果たしています。
カノン進行は多くの名曲に使用されている定番的なコード進行です。こちらの記事でも詳しく解説していますのでチェックしてみてください!

Bメロ
間奏から再度Aメロ8小節(順次下降)を経て、Bメロに続きます。(歌い出し:泣きたくなるような 優しい音……)

3小節目はジャズやポップスなどでよく使われるツーファイブワンの雰囲気が漂っていますが、実際のコード進行はⅣm→Ⅴ→Ⅰmとなっています。
しかしこのコード進行でもツーファイブワン進行とみなすことができます。それはⅡが元々Ⅳmの代理コードとしてと同じ機能を持つからです。
Dナチュラルマイナーダイアトニックの場合のコード機能の関係をみておきましょう。
コードの機能 | ティグリー | コード |
トニック | Ⅰm | Dm |
サブドミナントの代理 | Ⅱdim | Edim |
トニックの代理 | Ⅲ | F |
サブドミナント | Ⅳm | Gm |
ドミナント | Ⅴm | Am |
トニック、サブドミナントの代理 | Ⅵ | B♭ |
ドミナントの代理 | Ⅶ | C |
EdimとGmはコードの構成音が1音しか違わないため、ほぼ同じ機能(代理コード)として使うことができます。

ということで、本来のツーファイブワンはEdim→A7→Dm(これをマイナーツーファイブワンと呼びます)ですが、Gm7→A7→Dmも同じような雰囲気を出すことができます。
確かにA7はDナチュラルマイナーダイアトニックには登場しないコードです。つまりノン・ダイアトニックコードですが、マイナーキーにおけるツーファイブ進行では多くの場合Vmは使わずVに変換して用いられます。
ノン・ダイアトニックの音を含むⅤを使うことで、Ⅰmへのより強い解決感を出すことができます。
4小節目の最後も工夫が施されています。
このCm7というコードもノン・ダイアトニックコードですが、ここでのコードの使い方はFをトニックに見立てたセカンダリードミナントになっています。
ただしFをトニック見立てた場合ⅤはC7になるはずですが、使われているのはCm7。実はここがミソになっています!
Ⅴmはドミナントマイナーと呼ばれ、主にセクション間のつなぎ部分でアクセント的に使われることが多くコードで、その最大の特徴は”泣き”です。
なんともいえない切なさを出したい場合はドミナントマイナー!…これを覚えておきましょう。
Bメロ後半(歌い出し:前へ前へ進め……)は、転調している可能性があります。

1小節目はDマイナーダイアトニック内のコードですが、2小節目からBdim、Gといったノン・ダイアトニックが登場します。加えて、Bメロの雰囲気が前半と後半で変化していることに気づきます。
しかもその雰囲気は歌詞の内容(「前へ~前へ~進め 絶望を~たち~」)のようにポジティブな雰囲気に変化していることを考えると、メジャーキーへ転調しているのではないでしょうか。(CをトニックとしたDマイナーからCメジャーへの転調)
半音下への転調なので比較的緩やかな変化をもたらし、かつ、G→Gm7→Cのドミナントモーションにより終止感が与えられます。しかも間にGm7というドミナントマイナーを挟み込むことで、”切なさ”感まで加わってます。
サビ
最後にサビをみていきましょう。(歌い出し:失っても 失っても 生きていくしかない……)

出だしと最後がFになっていることから、Dマイナーの平行調であるFメジャーに転調しているといえます。
Aメロから間奏、Bメロの前半まで、悲しい出来事やそれが元で抱える闇…鬱々とした物語の中で、それでも立ち上がって前に進むしかない…サビはそんな厳しくも前に進む希望を歌ったパートといえます。
よってメジャーキーへの転調は曲の場面転換として有効に作用しています。
ただ2小節から3小節目をみると、Dmをトニックに見立てたツーファイブワン進行が見られます。(マイナーキーのツーファイブは本来のVmをVにする)
つまり再びマイナーキーに戻っている形になります。
平行調は元々使用するコードが同じであるため、特に現代のポップス等ではメジャーとマイナーの区分が曖昧なものです。
それでもここは意図的に作っているのではないかと個人的に考察します。
曲をよく聴くと、1回目の「失っても」と2回目の「失っても」はニュアンスが異なっていると思いませんか?同じ言葉ですが一方は”ポジティブな力強さ”、一方は”心に秘めた感じ”がします。
そう感じるのは、やはりコード進行による雰囲気づくりでしょう。
まさに歌詞の内容をもとにした世界観を作りあげるため、綿密な計算のうえ構築されていると思うと脱帽です。
まとめ
「竈門丹治郎のうた」のコード進行分析をまとめます。
- イントロ及びAメロ前半は順次進行の下降を使用
- Aメロ後半はカノン進行を使用。前半後半と同じメロディにもかかわらずコード進行を変えることで雰囲気をチェンジ
- Bメロ前半は代理コードを使ったツーファイブワンによる終止感、そしてマイナーセカンダリードミナントによる泣きのアクセント
- Bメロ後半は歌詞の内容にリンクするかのように半音下のメジャーキーへ転調
- サビも前向きな気持ちを表現するかのように平行調であるFメジャーに転調しつつ、場面によって元のキー(Dm)に戻るなど細かな調整が行われている
この曲を聴いていて思うのはそのストーリー性。とにかく物語の場面にピッタリと寄り添うことで、鬼滅の刃という作品を何倍にもすばらしいものにしていると思います。
なぜこうまで物語に合致した世界観を作れたのか…それは作者の椎名豪さんがこの曲をフィルムスコアリングという方法で制作されているからなのです。
アニメ制作に間に合うように、作曲、編曲、レコーディング、ミキシング、マスタリング…これだけの工程をハイクオリティに仕上げるってすごいことです。
”竈門丹治郎のうた”は第19話「ヒノカミ」と共に、何度でも味わいたいです。
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