コード分析シリーズの第3回目として、今回は米津玄師が作詞作曲を行い、小中学生の音楽ユニット「Foorin」が歌う、パプリカを分析したいと思います。
パプリカはNHKによる「2020応援ソングプロジェクト」の応援ソングとして制作された楽曲で、小中学生が歌う親しみと、どこか懐かしさを感じる曲として人気です。
今回は、懐かしさを感じる秘密も紐解いていきましょう。
パプリカの基本事項
まずは「パプリカ」という曲の基本事項をおさらいしておきましょう。
「2020応援ソングプロジェクト」とは
記事冒頭でも触れたとおり、この曲はNHKが展開している「2020応援ソングプロジェクト」の応援ソングとして2018年8月15日にリリースされたものです。
2020応援ソングプロジェクトとは
「あしたにたねをまこう!」というキャッチコピーのもと、2020年とその先の未来に向けて頑張っているすべての人を応援していくプロジェクトです。
パプリカを聴く
パプリカは「2020応援ソングプロジェクト」のWEBサイトで様々なバージョンを視聴することができます。
MV(ミュージックビデオ)は現在以下のバージョンが公開されています。
- 世界観ミュージックビデオ
- ダンスミュージックビデオ
- Foorin楽団ミュージックビデオ
- お江戸バージョン
- 広島バージョンその他…
そして曲を提供した米津玄師のセルフカバーバージョンがこちらです。
当たり前ですが、世界観がだいぶ異なったイメージですね。
”パプリカ”という曲名の由来
”パプリカ”の由来について、作者の米津玄師はインタビューでこう述べています。
音の響きですね。パプリカという物自体のポップな感じ、かわいい感じもあって。わかりやすい意味は無いですけど、何も考えていないと思われる事への危惧もあります。
引用:NHK 2020応援ソングプロジェクト
上記の言葉に続けて、こういっています。
わかりやすい意味を説明するのも大事なんですけど、本来そういう説明できないブラックボックス的なところがあるから、音楽のエモーションがある。サビの「パプリ〜カ」という歌も、メロディと節回しの気持ちよさがあって、それは音楽にとってとても大事な根源的な感情なんです。
引用:NHK 2020応援ソングプロジェクト
パプリカ 楽曲分析
それでは、さっそくパプリカを分析してみたいと思います。
コード進行はこちらのサイトを参照してください。
この曲のオリジナルキーはAですので、Aメジャーダイアトニックコードを中心に構成されています。
主に使用する音を鍵盤で示すと以下のとおりです。
コード進行
Aメロ
まずはAメロのコード進行をみてみましょう。
一小節目のAから進行していくと3小節目までコードが順番に下降しているのが分かると思います。
A→G#→F#→E→D
こういったコード進行を「順次進行の下降」といいます。順次進行の下降はとにかくバラードにマッチするというのが特徴です。
切ない…というより穏やかな雰囲気がバラードにちょうどよく、多くの曲のAメロなどに使用されています。例えば…
- TSUNAMI…サザンオールスターズ
- 終わりなき旅…ミスターチルドレン
- PRIDE…今井美樹
- 桜坂…福山雅治
- First Love…宇多田ヒカル
それだけに、この進行を安易に使うと既存の曲と似た感じになるので注意が必要です。パプリカの場合は曲想やメロディ、そして子どもが歌う応援歌…といった要素がこの穏やかな進行にとてもマッチしていると思います。
Bメロ
次にBメロです。
BメロはAメロに比べて、哀愁度が増した感じがしませんか?そう感じるのはマイナーキーに転調しているからなんです。
ここでの転調はAメジャーからF#マイナーへの転調。
この二つは平行調の関係にあり、始まる音が違うだけで、ダイアトニックを構成する音はまったく同じなのです。
こちらがAメジャーダイアトニック
そしてこちらが、F#マイナーダイアトニック
加えて、コード進行を見ていると、一つダイアトニックコードに含まれない音がありますね。それがC#7です。(赤い文字の部分)
こういったダイアトニック内に含まれないコードは「ノン・ダイアトニックコード」といいます。
ノンダイアトニックコードを適当に使うと曲の流れに違和感を感じさせますが、うまく使うと調性感に広がりを持たせることができます。
実際に弾いてみると、C#m7でもおかしくはないですが、C#7の方が切なさがグッと増してよいアクセントになっていると思います。
メロディ
メロディに関しても、この穏やかで素朴な雰囲気をだす工夫が施されています。
この楽曲では主にペンタトニックスケールという音階を使って、メロディが作られています。
ペンタトニックスケールとはダイアトニックスケールの4度と7度を抜いた5音で構成されるスケールです。
日本ではこの音階のことを、「ヨナ抜き音階」と呼び、童謡などを通じて古くから親しまれています。
鍵盤で示すと以下の感じになります。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
キーがAのペンタトニックスケールはオレンジ色の音です。実際にパプリカのAメロはほぼこの5音で構成されています。
先ほど、ペンタトニックスケールは童謡などによく用いられるという話をしましたが、音数が少ないということもあり、とても泥臭さのある明るい雰囲気になると思います。そして土着的でもありますね。
童謡とともに、日本の演歌もほぼこのスケールです。洗練、オシャレとは対極にあるようなスケールでしょう。
では、このスケールを使ったパプリカですが、実はそこまで泥臭くささを感じないのではないでしょうか。
ここがメロディづくりの妙で、適度にペンタトニック以外の音を混ぜることにより、童謡っぽい素朴感を出しつつ、そこまで泥臭さや演歌調といった雰囲気になり過ぎないようにしているのです。
アレンジ
アレンジ面にも少しふれておきます。
イントロからAメロは非常に音数が少なくシンプルですね。ドラムとシンセのコード、そして途中から入るベースのみ。
近年の洋楽はとくにシンプルなアレンジが多く、そういったところも意識しているかもしれません
Bメロではバンジョー(または三味線?)っぽい弦楽器が入り、民族っぽい雰囲気が漂うのみポイントですね。僕は沖縄っぽさを感じました。
そして、サビでは米津玄師自身のユニゾンコーラスが入っているのも曲に深みを与えていると思います。
まとめ
今回は”パプリカ”の楽曲を網羅的ではありませんが、いくつかのポイントに絞って分析してみました。
ポイントをまとめます。
- Aメロやサビでは「順次進行の下降」というコード進行が使われており、穏やかな雰囲気を醸し出している
- Bメロはマイナーキーに転調することで憂いを帯びた雰囲気を出している。ただ、平行調での転調ということで、それほど劇的な変化をしていないところがミソ
- メロディは全般的にペンタトニックスケールが用いることで童謡っぽさをだしつつも、4度や7度、またはダイアトニック外の音もすこし混ぜることで、雰囲気をコントロールしている。
- アレンジはシンプルさを意識しながらも、民族的なフレーズが印象的
2020年の応援ソングですから、まだまだこのムーブメントは続くのではないでしょうか。ピアノで弾き語りするのも楽しいと思いますよ。
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