あの名曲のコード進行はどうなっているのか?
その仕組みを知ることで曲作りや演奏に生かそう!というコンセプトで実際に分析してみたいと思います。
今回は荒井由実(現・松任谷由美)の名曲「卒業写真」です。
卒業シーズンでもなんでもありませんが、細かいことは気にせず行ってみましょう!
卒業写真の基本データベース
「卒業写真」は荒井由実時代のアルバム「COBALT HOUR」(1975年)に収録されている曲で、松任谷由美の代表曲の一つであるとともに、卒業ソングの代名詞のような曲でもあります。
実はこの曲は当初コーラスグループ「ハイ・ファイ・セット」への提供曲として作詞・作曲されましたが、後に荒井由実名義として本人が歌ったものがリリースされた経緯があります。
まずはハイ・ファイ・セットバージョンの卒業写真を聴いてみましょう。
すごくシンプルなアレンジのためか、メロディと歌詞の良さが際立ちますね。山本潤子さんの歌声も染み入ります。
そして荒井由実バージョンを聴いてみましょう。こちらはオリジナル音源ではなくカバーされたものですが、ほぼ原曲に近いアレンジになっています。
そしてこの曲は多くの有名アーティストからカバーされた曲としても有名です。
例えばいきものかかり、コブクロ、今井美樹、槇原敬之など錚々たるメンツです。
やはり冒頭でも触れましたが、元の楽曲が非常にシンプルであるため、各アーティストが自分なりの工夫を入れる余地があるんでしょうね。
ちょっと切なく、ノスタルジーを感じるのは歌詞の内容もありますが、ハーモニー、つまりコード進行にもその秘密はありそうです。
それでは、さっそくコード進行を分析してみましょう。
卒業写真のコード進行分析
まず卒業写真のコード進行についてはこちらのサイトをご確認ください。
ちなみにこの曲のキーはCですので、Cのダイアトニックコードを基本に進行していきます。
イントロ
それではイントロからみていきましょう。イントロはこちらの4小節から構成されています。
まず①の部分です。この部分は(Ⅱm7→V7→ⅠM7)という進行になっていますが、Ⅱm7→V7の流れはコード進行の定番ともいえるツーファイブ進行です。(キーCにおける2度から5度への進行だから”ツーファイブ”ですね。)
そして、V7→ⅠM7の流れはドミナント・モーションと呼ばれ、非常に終止感が強く落ち着くコード進行とされています。
※ドミナントモーションについてはこちらも参考にしてみてください。
そしてこれらの進行を組み合わせると、ツーファイブワン(Ⅱ→Ⅴ→Ⅰ)として超定番化しているコード進行となります。
そして②の部分。ここでC7というノンダイアトニックコード(ダイアトニックコード外のコード)が登場しました。
実はこのC7、このあとAメロ頭で登場するFM7とセットで、セカンダリードミナントを形成しているのです。
本来FM7はキーCの中では4度でサブドミナントとしての役割を担いますが、このFM7を仮のトニックと見立てればC7が5度のドミナントコードなります。
つまり、C7→FM7の流れはもう一つのドミナントモーションというわけです。
このようにダイアトニックコード内のコードを仮のトニックに見立て、本来のドミナントモーションと別のドミナントモーションを形成することを「セカンダリードミナント」といいます。
このようにノンダイアトニックコードを盛り込んでいくと調性感に広がりが感じられるため、曲に変化をつける際に有効です。
セカンダリードミナントについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
それでは、以上を踏まえてコードの流れを聴いてみましょう。
Aメロ
次にAメロのコード進行をみていきましょう。
ここでのポイントは①部分のD7です。
本来キーCにおける2度はDm(Dm7)ですから、D7はノンダイアトニックコードという位置づけになります。
イントロ編でもご説明したとおり、ノンダイアトニックコードを適当に使うと曲の流れに違和感を感じさせますが、うまく使うと調性感に広がりを持たせることができます。
Ⅱ7がダイアトニックコードの場合の活用は以下のとおりです。
Ⅱ7が使われるときのパターンで多いのは”Ⅵm7→Ⅱ7”の進行です。
逆に考えると、Ⅵm7を使った場合の進行パターンの選択肢としてはⅡm7に行ってもいいしⅡ7でもよいといえます。
Ⅱ7に進行した方が切なさ度が増す傾向にあるため、ここぞというときに使うと効果的です。
上記の進行に当てはめると、Am7→D7という流れが一つあり、その続きとしてツーファイブ進行としてG7がきます。
このAm7→D7→G7という進行はスピッツの「空も飛べるはず」でも使用されています。
【空も飛べるはず サビ】
F G Em7 Am D7 G
きっと今は自由 に空も飛べるはず
このようにⅥm7→Ⅱ7の進行は様々な曲で使用され、ある程度パターン化されています。
サビ
最後にサビのコード進行をみていきましょう。
基本的にはほぼダイアトニックコードで構成されていますが、ここでは①部分に着目します。
①のコード進行はⅡm7→Ⅴ7→ⅠM7→Ⅵm7で通称「逆循環コード」と呼ばれるものです。
逆循環というくらいですから、当然循環コードもあります。
【循環コード】
広義では4つのコードで延々と繰り返せる(循環できる)コード進行を指しますが、一般的には「Ⅰ→Ⅵm→Ⅱm→Ⅴ7」のコード進行を指し通称「1625(イチロクニーゴー)」と呼びます。
【逆循環コード】
循環コードを逆にしたもので進行は「Ⅱm→V7→Ⅰ→Ⅵm」となり、通称「2516(ニーゴーイチロク)」と呼びます。
上記をみて気づかれた方がいらっしゃるかもしれませんが、Ⅱm→Ⅴ7→Ⅰって結局はイントロで登場したツーファイブワンを内包している進行なんです。
つまり、ツーファイブワンの進行は、延々と循環するのにも適している、とても安心できる進行なんです。
まとめ
卒業写真におけるコード進行のポイントをまとめます。
- イントロはツーファイブワン(Ⅱm7→Ⅴ7→Ⅰ)の進行をそのまま使用したものであり、聴き手に対する安心感を醸し出している。
- ノンダイアトニックコードのⅠ7は、FM7に対するセカンダリードミナントとして使用されており、曲の変化を与えている
- ノンダイアトニックコードのⅡ7は、Ⅵm7→Ⅱ7をセットで使用すると、違和感なく進行させることができる。
- サビのコード進行の一部はイントロと同じであるが、このコード進行は逆循環コード(2516進行)と呼ばれ、安定感の進行といわれている。
卒業写真には定番とされるコード進行が多く組み込まれていることから、聴き手に対する安心感とともに、調性外のコードを効果的に使用することで、飽きさせない作りになっています。
実際にユーミンがどこまで計算して作ったか分かりませんが、かなり計算して作られていると感じました。
お手本コード進行として、曲作り等の参考になると思います。
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