数多くあるコード進行の中でも、定番の1つとして有名なものに「カノン進行」があります。
カノン進行は普段みなさんが聴いている曲の中にも絶対!といっていいくらい使われています。どこか懐かしい安心するような雰囲気…そんな曲が多いです。
今回はカノン進行の基本的な特徴を解説するとともに、カノン進行が使われている名曲の中から10曲を選んで、どの箇所に使われているのか解説します。
カノン進行とは
カノン進行の源流

まずカノン進行とはどういうコード進行なのかを押さえておきましょう。
ルーツは17世紀のバロック時代まで遡ります。この時代のクラシック作曲家パッヘルベルによる”カノン”(正式名称:3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調)という曲に用いられていたコード進行がその源流です。
そのコード進行とは次のようなものです。キーCで表します。

上記のコード進行をそのまま使用したり、多少アレンジを加えた曲を「カノン進行を使っている曲」と呼んでいます。日本でも数えきれないくらいの曲が上げられます。詳しくは後述します。
シンプルなアレンジで弾いてみました。
現代のポップス等へ使われたキッカケ
大昔のクラシック曲のフォーマットが、なぜ現在のポップス等にこれほどまで使われているのか。
一説には、バロックの中に潜むモダンなエッセンスに初めて気づいたのは1950年代のジャズミュージシャン達といわれています。
その後、1967年にリリースされたプロコル・ハイムの「青い影」がヒットしたことで、欧米を始め日本でもこのカノン進行が使われるようになったようです。
カノン進行の特徴
さて、カノン進行自体の特徴を考えてみましょう。
ここでは2点ほどピックアップしていきます。
- 安定から緊張への循環
- 順次進行によるなめらかさ
1つずつ解説します。
①安定から緊張への循環
カノン進行はそのキーのトニックから始まりドミナントで終わる構成になっています。
- トニック…そのキーで安定して聴こえるコード
- ドミナント…緊張感のある不安定なコード
図にすると次のような感じです。(キーをCとした場合)

安心感のある雰囲気から始まり、なめらかな進行(後述)を経て不安定感を迎えます。ドミナントというのは必ず次のコードに進みたがる性質があるため、このカノン進行は「循環コード」として非常に有能なのです。
”循環コード”とは何回でも繰り返して成立するコード進行です。
例えばカノン進行をそのままAメロに当てはめ、2周りさせればそれだけで曲の骨格の半分は出来たも同然なのです。
このように、コード進行の構成自体が曲に生かしやすくなっています。
②順次進行によるなめらかさ
①で”なめらかな進行”という言葉を使いましたが、各コードのトップノート(一番高音部分)をみていくと、順番に音が下降していき、やがて上昇していきます。

またコード進行の度数間隔が5度→2度…の繰り返しになっていますが、この規則正しさがカノン進行の親しみやすさの秘密になっています。
もともと順次進行の下降というコード進行がありますが、バラードに非常にマッチする進行だったりします。規則正しいがゆえにメロディが乗せやすいという特性もあり、初心者向けのコード進行といわれる所以でもあります。
カノン進行が使われている名曲10選
ここからカノン進行を楽曲のベースにしている曲を10曲選択して、どの部分にカノン進行を使っているのか説明していきます。(発表年順に掲載します。)
コード進行の上段は”コードの機能”を示すディグリーネームを記載しています。
ティグリーネームの詳細はこちらの記事を参考にしてみてください。

クリスマス・イブ(山下達郎)
アーティスト:山下達郎
発表年:1983年
キー:A
Aメロを中心にカノン進行の変形が使われています。そして1:56~からは、カノンのメロディがスキャットで披露されています
Ⅰ | Ⅴ |
A | E |
Ⅵ | Ⅴ |
F#m7 | E6 |
Ⅳ | Ⅲ |
DM7 | C#m7 |
Ⅱ | Ⅳ Ⅴ |
Bm7 | D/E E |
クリスマスソングといえばコレ!というべき定番として長く親しまれてきた名曲。40代以上の方にとってはJR東海のCMが懐かしいのではないでしょうか。
1小節に1コードを配置する長めの循環になっています。4小節目は(Ⅲ)ではなく(Ⅴ)に進行しているのがカノン進行の変形部分です。
このアレンジにより、4小節目からⅤ→Ⅳ→Ⅲ→Ⅱと順次下降の進行となっており、よりメロディアスさが増す効果があります。
ENDLESS RAIN(X JAPAN)
アーティスト:X JAPAN
発表年:1989年
キー:B
0:43~からのAメロを中心にカノン進行の変形が使われています
Ⅰ | Ⅴ |
B | F# |
Ⅵ | Ⅳ Ⅴ |
G#m | E F# |
X JAPAN初期の壮大なバラード曲。徐々に盛り上がっていく曲展開が素晴らしい。
通常のカノン進行は1小節で2回コードチェンジし、4小節で巡回する進行ですが、この曲では1小節内のコードチェンジはありません。展開が少ない分、ゆったりとした雰囲気がAメロの役割を果たしている感じです。
勇気100%(光GENJI)
アーティスト:光GENJI
発表年:1993年
キー:D
イントロ、Aメロにカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ Ⅲ | Ⅵ Ⅲ |
D F#m | Bm F#m |
Ⅳ | Ⅰ |
G | D |
NHKEテレのアニメ「忍たま乱太郎」の主題歌として長く親しまれてきた「勇気100%」。光GENJIの後も、様々なジャニーズアイドルがカバーしていますね。
さて、イントロは聴いただけでカノンの雰囲気が醸し出されていますね。
対してAメロは、1小節3拍目は(Ⅴ)ではなく(Ⅲ)に進行、3小節以降も割と変形です。
作曲するときは、このくらい変形させても面白いですね。
このまま君だけを奪い去りたい(DEEN)
アーティスト:DEEN
発表年:1993年
キー:A♭
1:24~からのサビでカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ Ⅴ | Ⅵ Ⅲ |
A♭ E♭ | Fm7 Cm7 |
Ⅳ Ⅰ | Ⅱm Ⅴ |
D♭ A♭ | B♭m7 D♭/E♭ |
DEENのデビューシングル。デビュー曲でヒットしましたよね。
カノン進行をサビに持ってきているパターンです。よくAメロに使っている曲が多いですが、こういったバラード調の曲ではサビ合うのかもしれません。
ハナミズキ(一青窈)
アーティスト:一青窈
発表年:2004年
キー:E
Aメロにカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ Ⅴ | Ⅵ I |
E B | C#m7 E |
Ⅳ Ⅰ | Ⅱ Ⅴ |
A E | F#m7 F#m7/B |
ピアノの主体にしたシンプルなアレンジが、メロディと言葉(歌詞)の良さをストレートに伝えてくれる名曲ですね。
2小節3拍目がⅢではなくⅠに、4小節1拍目が(Ⅳ)ではなく(Ⅱ)に進行しているのが変形ポイントです。ピアノの伴奏を追っていけば、カノン進行らしさが醸し出されています。
愛をこめて花束を(Superfly)
アーティスト:Superfly
発表年:2008年
キー:G
Aメロにカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ Ⅴ | Ⅵ Ⅲ |
G D | Em7 Bm7 |
Ⅳ Ⅱ | Ⅶ Ⅴ |
C Am7 | F Am7/D |
ハナミズキ同様、こちらも長く愛された名曲で、もはやスタンダードソングといっていいくらいの曲ですね。
3小節3拍目から(Ⅱ→Ⅶ)という進行を見せていますが、本来のカノン進行(Ⅰ→Ⅳ)よりも”続いていくよ感”というか、盛り上がっていく感じがあって気に入ってます。

恋するフォーチュンクッキー(AKB48)
アーティスト:AKB48
発表年:2013年
キー:D
1:40~からのサビでカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ | Ⅴ |
D | A6 |
Ⅵ | Ⅴ |
Bm7 | A6 |
Ⅳ | Ⅲ |
GM7 | F#m7 |
Ⅱ | Ⅴ |
E | A D |
ご存知AKB48の大ヒットナンバー!
みんなで一緒になって笑顔で踊れる曲って最近はないですから、見ているだけでも幸せな気持ちになってきます。
1小節にワンコードずつ配置されている進行になっています。割と変形ですが、特徴としては、3小節目から(Ⅴ→Ⅳ→Ⅲ→Ⅱ)と順次下降進行になっている部分(♪未来はそんな悪くないよ ヘヘイヘ~イ ヘヘイヘ~イのところですね。)
にじいろ(絢香)
アーティスト:絢香
発表年:2014年
キー:D
Aメロにカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ Ⅴ | Ⅵm I |
D A | Bm7 D |
Ⅳ Ⅰ | Ⅱm Ⅴ |
G D | Em7 GM7/A A7 |
NHK連続TV小説の主題歌にも起用された曲で、とてもポジティブで前向きな曲です。
2小節3拍目は本来(Ⅲ)ですがトニックである(I)に戻る進行となっています。しかもオクターブが同じ(Ⅰ)に戻るので、カノンのクラシカルさが薄れ割と洗練された雰囲気に感じます。ミディアムテンポのナンバーにカノン進行を生かした好例です。
マリーゴールド(あいみょん)
アーティスト:あいみょん
発表年:2018年
キー:D
Aメロとサビにカノン進行の変形が使われています
Ⅰ | Ⅴ |
D | A/C# |
Ⅵm | Ⅳ |
Bm | A |
Ⅳ | Ⅰ |
G | D/F# |
Ⅳ | Ⅴ |
G | A |
ほぼ1曲を通してガッツリ、カノン進行が使われています。変形しているポイントも1か所(4小節目の(Ⅲ)が(Ⅴ)に進行)くらいで、カノン要素の強い楽曲です。
実は「恋するフォーチュンクッキー」とキーも同じで、コードの詰め込み具体も同じなんですよ。でもアレンジの妙なのか、結構雰囲気違いますよね。
もちろんメロディの違いは大きいんですが、こうやって比較すると面白いものです。
虹(菅田将暉)
アーティスト:菅田将暉
発表年:2020年
キー:F
Aメロとサビにカノン進行の変形が使われています。
Ⅰ Ⅴ | Ⅵm Ⅲ |
F C | Bm Am |
Ⅳ Ⅰ | Ⅱ Ⅴ |
B♭ F/A | Gm Csus4 C |
映画「STAND BY ME ドラえもん2」の主題歌でもある本作は、ドラえもんとのことを歌っているようでもあり、(PVでの)家族との絆を歌っているようでもあり…とにかくあったかい気持ちになる、そんな曲ですね。
こちらも、Bメロを除く全編でカノン進行が循環で使われています。やはりバラードよりの楽曲にカノン進行がガッチリハマりますね。
まとめ
カノン進行を使用している曲を10曲セレクトしてご紹介しました。同じカノン進行をベースにしつつも、多少アレンジを加えることでより洗練されたり、ポップになったりするのがお分かりいただけると思います。
また10曲中4曲がキー低めのDでした。マリーゴールド、にじいろ、恋するフォーチュンクッキーとAメロから淡々と歌い上げられる楽曲が多く、より多くの人が歌いやすく楽しめるように、そんな配慮も見え隠れするように思いました。
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