今回は劇場版アニメとして上映された「鬼滅の刃 無限列車編」のエンディングテーマとして使用された「炎(ほむら)」について、コード進行を中心とした楽曲分析を行います。
TVアニメ版の主題歌「紅蓮華」とは一転、壮大なバラードである本曲は、様々な仕掛けが施されており聴く人の感情を揺さぶる、まさに名曲といえるでしょう。
劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」とは
日本では2020年10月16日から上映された本作は、上映開始後10日で興行収益100億円を突破するなど、もはや説明が不要なくらい社会現象になっていますね。
映画「鬼滅の刃」興行収入が157億円突破 「アバター」「崖の上のポニョ」超え歴代10位に
今回劇場版になった”無限列車編”は、2019年に放送されたアニメの最終話(26話)の続きであり、コミックスでは7、8巻あたりが該当します。
映画をまだご覧になっていない方は、アニメである程度予習していった方がより楽しめると思います。
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「炎」の基本事項
- 作詞:梶浦由記、LiSA
- 作曲:梶浦由記
- 編曲:梶浦由記
【演奏】 - キーボード:梶浦由記
- ギター:是永巧一
- ドラムス:佐藤強一
- ベース:高橋“jr.”知治
- ストリングス:今野均ストリングス
LiSAさんによる歌唱や鬼滅の刃の世界観を見事に盛り込んだ歌詞がすばらしいのはもちろんですが、作編曲の梶浦由記さんの存在が大きいです。
梶浦さんといえば、アニメソング業界ではレジェンドともいえる存在で、鬼滅の刃アニメ版でも椎名豪さん(竈門炭治郎の歌の作曲者)と共に盛り上げてくれましたね。
そして2020年10月24日に放送されたNHK SONGSでは、LiSAさんと梶浦さん2人による「炎」の生演奏が放送されました。歌とピアノのみの演奏でしたが、それはもう鬼気迫る迫力でした!
なんと、梶浦さんと対面で「炎」を歌わせていただきます。
絶対に、絶対に、お見逃しなく!
24日 NHK様です。 https://t.co/L3zMYZ4dnZ— LiSA (@LiSA_OLiVE) October 14, 2020
アメブロを投稿しました。
『「マコトシヤカ」について。』#アメブロ
https://t.co/cgKvVCfcDn— LiSA (@LiSA_OLiVE) November 1, 2020
コード進行分析
それでは、さっそく「炎(ほむら)」の分析をしてみたいと思います。フルのコード進行はこちらのサイトをご覧ください。
キー
この曲のオリジナルキーはDメジャーですので、Dメジャーダイアトニックコードを中心に構成されています。ただし、サビや間奏で転調が繰り返されていますので、あくまで曲の出だし部分という捉え方でいいと思います。
主に使用する音を鍵盤で示すと以下のとおりです。
イントロ
まずはイントロをみていきましょう。
わずか4小節で構成されたシンプルなイントロですが、曲に入り込んでいくための導入部としての役割を見事に作っていると思います。
コード進行的には6541という流れで、このようなベース音が高音部から順番に下降してくる進行を”順次下降”と呼びます。
”順次下降”はバラードやメロディアスな楽曲に用いられることが多く、メロディラインがスムーズに流れるのが特徴です。
そしてこの後説明するAメロのコード進行の変形という捉え方をすることもできるでしょう。
Aメロ
続いてAメロです。
Aメロのコード進行は6451という進行になっています。いわゆる小室進行といわれる進行です。小室進行は小室哲也さんが関わった多くの楽曲で使用されている進行です。
- GET WILD(TMネットワーク)
- 残酷な天使のテーゼ(高橋洋子)
- 希望の轍(サザンオールスターズ)
- YELL(いきものがかり)
- 千本桜(初音ミク)
これでもほんの一部ですがどこか憂いを帯びた曲が多い印象です。
このように多くの楽曲で使用されているので、一聴した際に「どこかで聴いた感じだな」と思う場合が多く、ベタなメロディではありふれた感じになってしまいますが、メロディが映えるといい意味で安心感につながってきます。
Bメロ
続いてBメロいってみましょう。
かなり頻繁にコードチェンジを行っています。
そして、3小節目(Bメロの下段)ではDメジャーダイアトニックコードでは出てこないGmやAmといったコードも見られます。つまりここで一時的にFメジャーに転調しているのです。
今回のDメジャーからFメジャー(またはBmからDm)への転調は、5度圏でみると♭が3つ分足された転調です。(右回りは♭から増えていく、左回りは#が増えていきます。)
今回と同じ♭+3の転調は比較的よくみられる転調です。結構自然な感じを出しつつも、ハッキリと雰囲気の違いも感じられるので、使いやすいといわれる転調です。
例えば、GLAYの「誘惑」のサビも♭+3の転調です。
サビ
そしてサビのコード進行です。
まずキーですが、サビはBメロ後半のFからE(Cm)に更なる転調をしています。
この転調は5度圏で表すと#が5つ増える転調。度数で示すと半音下への転調となります。
通常サビでの転調は盛り上げるためにキーを上げることが多いですが、炎は半音下への転調となっています。
炎の場合は、サビのメロディが徐々に高音に上っていくような展開になっています。そう考えると、一旦沈み込んでから登っていくという振り幅を広げる意味で効果的な転調になっているように思えます。
そしてコード進行的には6小節目まで6451進行となっています。つまりAメロ同様、ここでも小室進行がメインで使われています。
もう一つ7、8小節目ではC#mを仮のトニックとしてとらえたドミナントモーション(V→Ⅰ)の形になっています。これがリズム的にも曲の展開的にもよいアクセントになっています。
間奏
この先の展開としては、2回目のBメロ後の間奏でG(Em)に転調します。度数で表すと一気に5度上への転調ですが、ここのLiSAさんの魂がこもった叫びともいうべきパートですから、盛り上げどころとしてマッチしていると思います。
アレンジ
アレンジ面でも色々語れるべきポイントはありますが、特に印象深いのが聴き手の感情を揺さぶるストリングスの使い方だと思います。
”梶浦由記サウンド”とは切っても切れないストリングスですが、当初は苦手だったようです。その様子はキーボードマガジンでのインタビューで次のように語られています。
――あと、先ほどから話に挙がっているストリングスは、いろんな場面で効果的に使われています。そういう手法はどうやって身に付けたのですか?
梶浦:サウンドトラックを書き始めたころは、バイオリンとチェロくらいしか使えなくて、記号をどう書けばいいか全然分からず、適当な譜面を渡してプレイヤーさんにすごく嫌がられていました
-省略-
「ゼノサーガ」シリーズっていうゲームの音楽で「Xenosage EPISODEⅡ 善悪の彼岸」をやらせていただいた時に”弦は大きい編成でね”って言われて”えっ?書いたことないんですけど、大きい編成なんて”ってオロオロしてしまって、そこからやっと勉強し始めて、やっと使うようになったら、実際やってみると自分が奏でたかった音楽が大きな弦と非常に相性がいいなと思いまして、もっと早くやってけば良かったと本当に後悔しました(笑)。
Keyboardマガジン 2019 No406インタビューより
梶浦由記さんの楽曲には”切なさ”や”悲しみ”といった要素がうまく表現されており、そういったジャンルは真骨頂というべきものがあります。
ストリングスアレンジはまさに自己の奏でたい音楽と、非常にマッチするということがインタビューからも伺い知れます。
→次ページ 炎の歌詞を分析…物語に忠実ながら様々な解釈もできる
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