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吉幾三の「TSUGARU」を通じて津軽弁を翻訳&解説!

吉幾三が2019年9月12日に配信リリースした新曲「TSUGARU」が話題になっています。
話題の中心は何といっても「歌詞が分からない」という声。

それもそのはず、この曲はほぼ全編に渡り津軽弁で繰り広げられ、MVの字幕も津軽弁だからなのです。それも、一切の妥協のないかなりネイティブな津軽弁です。

カフェラン
カフェラン
正直青森県人でも、若い人だと通じないレベルの津軽弁も盛り込まれています

 

この曲の歌詞には吉さんのある思いが込められているとともに、青森県の文化のようなものもふんだんに盛り込まれています。

今回は「TSUGARU」の内容について、青森津軽生まれの私カフェランが翻訳するとともに、津軽弁の解説を補足してお届けしたいと思います。

カフェラン
カフェラン
歌詞は津軽弁と標準語部分がありますが、津軽弁部分のみピックアップします。なお翻訳は人によって多少にニュアンスが異なるかもしれませんが、ご了承ください

吉幾三「TSUGARU」の翻訳

まずこの曲のシチュエーションは、近所のおじちゃん同士の井戸端会議の中身を歌にしたものです。登場人物の年齢構成を総合的に考慮すると、会話をしているおじちゃんは、おそらく60歳前半から60歳中盤あたりと推測できます。

それでは、さっそくいってみましょう!

お爺ちゃんお婆ちゃんパート

カフェラン
カフェラン
冒頭は話相手のお爺ちゃん、お婆ちゃん(とはいえ、話し相手の親世代)のことを話題にしています。

おめだのじこばば どしてらば?
あんたん(家)ちのお爺さんお婆さんはどうしてる?

おらえのじこばば きょねんしんだね
ウチのお爺さんお婆さんは、去年死んだよ

津軽弁解説

  • おめだ:あなた→おまえ→おめだと変化したもの
  • おらえ:”おら”は「おれ→おら」と変化したもの(孫悟空の「おら、悟空!」と同じ意味)。”え”は「いえ→え」と省略したもの。つなげると「おらえ→私の家→ウチ」

 

息子パート

カフェラン
カフェラン
話は田舎を出た息子の話題へ

あめだのあにさま どしてらば?
おらえのあにさま しらねじゃわ
あんたんちの息子さんはどうしてる?
ウチの息子、何しているか知らないよ

かみさいっだって きいたばて
かみのどのどさ いったがや?
東京に行ったって聞いたけど
東京のどこに行ったの?

さっぽどわがねじゃ おいのあに
ばかこでばかこで しかたねね
さっぱりわからないのよ、ウチの息子
バカな息子で仕方ないよ

津軽弁解説

  • あにさま:津軽弁で「あに=息子」。自分の息子は”あに”。よそ様の息子を指す場合はさまをつけて”あにさま”
  • かみ:津軽弁で「かみ=東京」。上を訓読みで”かみ”と読みますが、つまり青森県から上にあたる地方のこと。上り電車の”上”が東京方面なのと同じ意味。

 

娘パート

カフェラン
カフェラン
続けて娘の話題へ

おめだのあねさま どしてらば?
おらえのあねさま あめりかさ!
あんたんちの娘さん どうしてる?
ウチの娘 アメリカに行ってるよ!

よめこになったて なねたてば
もどってこねねろ ばがこだね
お嫁にいって何年も経つけど、
戻ってこないのよ あのバカ娘

わらしこできだて きいたばて
おどごわらしな おなごだな
子どもできたって聞いたけど
男の子?女の子?

いわいのじぇんこもつつまねで
ほんとにめいわぐば かけてらじゃー
お祝いも包まないで
ホントに迷惑かけたねー

津軽弁解説

  • あねさま:津軽弁で「あね=娘」。自分の娘は”あね”。よそ様の娘を指す場合はさまをつけて”あねさま”
  • わらしこ:「童=わらしこ→子ども」これはわかりやすいですね
  • じぇんこ:津軽弁で”お金”のこと。ここでは結婚のお祝い金のこと

 

サビパート

しゃべれば しゃべたって しゃべられる
しゃべねば しゃべねって しゃべられる
喋れば おしゃべりっていわれる
黙っていれば 無口っていわれる

しゃべれば いいのが わるいのか
しゃべねば いいのが わるいのか
しゃべるのが いいのか悪いのか
黙っているのが いいのかわるいのか

津軽弁解説

青森県の男性は無口な人が多いです。まぁ基本的にシャイなんですよね。
その代わり女性は豪快で元気な人が多い。この辺りバランスはとれているんです。

が、たまにおしゃべりな男性もいます。そういう男性は「男のくせにおしゃべりだ」なんて評価を下されることもあります。

で、基本無口が津軽男のデフォなんですが、無口すぎると「あんたも何かいいなさいよ!」的な空気になることあります。

カフェラン
カフェラン
ホント、いいのか?悪いのか?です。この辺の歌詞、ほんとうまいなーって思います。

 

身体が痛いよ…パート

カフェラン
カフェラン
おじちゃんは自分の体の愚痴をはじめました

なぼでもふるだね ゆべながら
どこさもいけねじゃ こいだばや
夕べから雪がたくさん降っているよ
これじゃどこにもいけないよ

すべっておけたね あのはしで
おどげらんかん ぶつけたね
滑って転んだんだよ あの橋で
一昨日は欄干にぶつかったよ

なじぎとどんじ いぼでぎて
いまからいぐだね いしゃこさな
おでことお尻にイボができて
今から病院に行くんだよ

なんだかしらねじゃ ゆべながら
いだくてまねはで いでくるじゃ
なんか知らないけど、夕べから
痛くてたまらないからいってくるよ

よろたとひじゃかぶ おたてまて
そごらもいしゃこさ みでもらて
太股と膝も辛いから
ついでにその辺も診てもらおうかな

津軽弁解説

  • なじき:津軽弁で”おでこ”のこと
  • どんじ:津軽弁で”おしり”のこと
  • いしゃこ:お医者さん→病院のことですが、津軽弁では”〇〇こ”と名詞に「こ」を付けることが多い。かわいい感じになります
  • ひじゃかぶ:膝のことですが「ひざ→ひじゃ」と変化

 

今晩飲もうよ…パート

カフェラン
カフェラン
何だかんだありながら、 今晩の一杯やろうよ…的な話題に発展

ゆこさもはいってくるだね きょう
ばげにはもどるね えさこなさ
今日は温泉(銭湯)にも入ってくるよ
夜には戻るから、今日家に来なよ

もやしとねぎへだ もつくべし
いっぺいやるべし こにゃこんにゃ
もしやしネギのはいったモツ鍋食べよう
今夜一杯やろう

あぱだきゃいねね だもいねね
でんわこかげるね もどればなー
女房もいないし、他にも誰もいないから
戻ったら電話かけるよ

  • ゆさこ:温泉(または銭湯)のことで、老人会等で無料で温泉に入れる日があります。ここでも”〇〇こ”と「こ」がつきますね
  • ばげ:「ばげ→ばん(晩)」
  • あぱ:通常は”あっぱ”と使います。奥さんのこと

 

息子たちの帰省について…パート

カフェラン
カフェラン
田舎からでていく子供たちについて熱く語ります

あおもり ひろさき ごしょがわら
はちのへ むつに あじがさわ
青森 弘前 五所川原
八戸 陸奥に 鯵ヶ沢

くうものめべし さけこまだ
さんぽううみこさ かごまれで
食べるものは美味しいし お酒もそう
三方を海で囲まれて

そいでもでてゆぐ ばかこいる
もどってこねねろ わらはんど
それでも出ていく バカなやつがいつ
戻ってこないんだよ 子ども達

かえれば おみやげ もだへでや
くるとぎ まいにち くたことね
かしだきゃいらねじゃ じぇこけれじゃ
帰省すればお土産持たせてやるけど
来るときは食べたこともないお菓子いらないから
お金ちょうだい

  • わらはんど:これも「童」の変形で、”わらはんど”は子どもの複数形

 

遺産話は生々しい…パート

カフェラン
カフェラン
お酒も手伝ってか、話は生々しい話題へ…

たはたさんりん どしたばや
しんだらうるだべ なもやねじゃ
ひゃくまでいぎるだ なもやねじゃ
田んぼや畑、山林はどうしたの?
俺が死んだら売るんじゃないか?何もやるつもりない
100歳まで生きるつもりだから 何もやらないぞ

ばげてでてやる しんでから
まぐらもどさ たってやる
化けて出てやる 死んでから
枕元にたってやる

おぼえておがなが このわらし
おめだちとしとりゃ おなじだねー
覚えておけよ 子どもよ
お前たちだって年取れば 同じだからな

 

この曲に込めた願い

上の動画で語っているとおり、この曲は吉幾三さんの故郷である津軽へのメッセージが込められています。

それは、薄れつつある津軽弁を残しておきたいという願い。

津軽弁はイントネーションとかの違いではなく、単語や名詞自体が異なる非常に独特な方言であり、もはや言語といえるくらい標準語とはかけ離れています。

それだけに、津軽出身でも若い人になると、それほどコテコテの津軽弁を使わない人が多いです。(お年寄りはバリバリ使いますけどね)

こういった曲として残ることで、若い人も興味をもったり、他県の人でも津軽の文化に興味を持ってもらえるきっかけになると思うのです。

そしてもう一つは、田舎から出ていった若者への「たまには親に顔見せにおいで」というメッセージ。

今の日本は人口の面でも地域格差が拡大し、東京の一極集中ともいわれています。いわゆる過疎化の問題ですね。

そういった根深い構造の問題はありますが、それは置いておいても、もうちょっと気軽に顔を見せにおいでよ!というメッセージ。標準語部分の歌詞を聴けば伝わってくるものありますね。

カフェラン
カフェラン
今でも津軽に住んでいる、吉さんらしいメッセージだなぁと思います

 

マメ知識

最後にマメ知識を2つほど。

撮影場所

PVで吉さんが建物の前で歌っているいますが、あの”白亜の豪邸”は青森県金木にある吉さんがお母さま用に建てたものです。通称”ホワイトハウス”といわれ、吹雪になると雪と同化し、建物の場所が分からなくなるそうです。

 

「俺ら東京さ行ぐだ」のアンサーソング説

吉幾三の名曲「俺ら東京さ行ぐだ」。この曲は何もない田舎に嫌気が差した若者が東京に行く夢を語った歌であり、ジャパニーズラップの先駆けといわれている曲です。

今回の「TSUGARU」は、田舎を出た子どもたちに対して、「戻ってこいよ」「顔見せに来いよ」と語りかけていく内容です。

どうですか、見事につながっていますよね。

「俺ら東京さ行ぐだ」が1984年リリース。「TSUGARU」が2019年ですから、実に35年の年月を経た、壮大な物語といえます。

 

まとめ

津軽弁をふんだんに盛り込んだ吉幾三の「TSUGARU」について、楽曲解説として津軽弁の解説をさせていただきました。

一見、ふざけているような曲ですが、その根底に流れるメッセージはとても共感できるものですし、「俺ら東京さ行ぐだ」を含めて、このような曲を説得力をもって聴かせられるのは、吉さんの歌唱力あってのものだと思います。

是非、楽しんで聴いてもらえたら、津軽出身者の一人として、とてもうれしいし、誇らしい気持ちです。